動画は「記事コンテンツの2倍」記憶に残る――忘れられない企画の「3つの要素」
人は何か文字を記憶しても、20分後にはその42%を、1時間後には56%を忘れてしまうそうです。一方で、映像と音声を掛け合わせた動画は、文字で構成される記事型のコンテンツよりも「2倍」、人の記憶の中に留まり続けることが分かっています。
今回は「人間の知覚」という観点から「動画マーケティング」の有効性を紹介します。
「今朝読んだニュース記事の内容、覚えていますか?」
人間は忘れる動物です。ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスは、「忘却曲線」という理論を提唱しました。これは、被験者にアルファベットを適当に並べただけの無意味な文字列を暗記してもらい、その記憶の定着率を調べる実験の結果に基づいたものです。
この理論によれば、人は文字を記憶しても、その20分後には42%を忘れてしまいます。そして1時間後には56%、1日後には74%、1週間後には77%、1カ月後には79%を忘れます。逓減率は収束に向かいつつも、ほとんどの記憶を失くしてしまうのです。
▼エビングハウスの忘却曲線
企業のマーケティング担当者にとって、これは不都合な真実です。すぐに忘れられてしまうのであればコンテンツを制作する努力が水の泡のように感じられますし、割り当てるはずの予算が急に割に合わないもののように感じられてしまいます。
しかし、この真実に抗う一手が「動画」です。エビングハウスの実験は、文字列、つまりテキストのコンテンツを題材に行われたものでした。もしこれが動画で行われていたとしたら、結果はきっと異なるものになっていたはずです。
動画の記憶定着率は、記事コンテンツの「2倍」
アメリカ国立訓練研究所が「ラーニングピラミッド」という理論を提唱しています。人の学習の定着率を、コンテンツのフォーマットごとに研究し、序列化したものです。
▼コンテンツのフォーマットごとに学習の定着率を序列化した「ラーニングピラミッド」
画像参照元:http://siteresources.worldbank.org/DEVMARKETPLACE/Resources/Handout_TheLearningPyramid.pdf
「Lecture(レクチャー)」、すなわち情報を一方的な講義形式で受けた場合、記憶の定着率はわずか5%です。「Reading(リーディング)」はエビングハウスの実験のようにテキストを読んだ場合を表し、定着率は10%。これに対し「Audio-Visual(オーディオビジュアル)」を視聴した場合は20%まで上昇します。
つまり、視覚に訴えかける映像と聴覚に訴えかける音声を掛け合わせた「動画」のコンテンツを制作し、視聴者に向けて配信した場合、テキストだけで構成される「記事」コンテンツよりも「2倍」、記憶の中に留まり続けるのです。動画マーケティングがブランド認知やブランド想起に有効なことを裏付けていると言えるでしょう。
ピラミッドの下位階層にも注目してみましょう。「Demonstration(デモンストレーション):実演」が30%、「Group Discussion(グループディスカッション):議論」が50%、「Practice(プラクティス):練習」が75%、「Teaching Others(ティーチング・アザーズ):他人を対象に講義」が90%となっています。
動画のコンテンツを企画する際には、より学習の定着率が高い下位階層のフォーマットの特性を分析し、それを応用できないか検討するとよいでしょう。例えば動画の内容を視聴者に真似させたり、議論を促すような仕掛けにすると、記憶に定着するとともに、話題性も期待できるかもしれません。
視聴者がずっと忘れない、動画コンテンツの「3つの要素」
1984年1月22日に行われたスーパーボウルでアップル社が放映したCM「1984」は、世界でもっとも有名な動画コンテンツの一つと言われています。
作家ジョージ・オーウェルのSF小説「1984年」を元にしたこのCMは、それまでのIT業界の巨人 IBMを表していると言われるビッグ・ブラザーの演説が映し出されているスクリーンに向かい、アスリートの女性がハンマーを投げつけ爆発させるというもの。
この動画が多くの人の記憶に残っているように、ずっと昔に見たはずなのに、今でも鮮明に覚えているコンテンツというものは誰にでもあるでしょう。「人間は忘れる動物である」とここまで語ってきましたが、人の記憶に残りやすい動画の要素というものもあります。
コンテンツを視聴者の記憶に定着させるためには、彼らの「長期記憶」にアプローチすることが必要です。長期記憶は、別名「エピソード記憶」とも呼ばれています。つまり、動画と視聴者が体験した出来事とが重なりあうことで、記憶として定着するのです。上述のアップル社の「1984」も、スーパーボウルというファンにとって特別なイベント時に放映されたことで、今なお名作として記憶されているのでしょう。
一方、脳研究の第一人者、柿木隆介医学博士によれば、長期記憶されやすいコンテンツに含まれる要素は次の3つとしています。「印象が強烈なもの」「脳が重要であると認識したもの」そして「反復性」です。視聴者はこれらの要素を、感情を揺さぶられるストーリーとして記憶するのです。
動画広告を実施する際、よく「インパクトのあるものを作りたい」という要望が挙がりますが、ただ印象が強烈なだけでは、記憶にとどめることは難しいのかもしれません。今後は、企画したコンテンツが上記の3つの要素を網羅しているか確かめてみるのもよいでしょう。
今回は「人の記憶」という観点から、動画マーケティングの効力について考えてみました。忘れてしまうことも、そして記憶することも、すべては人の特性であり、それを踏まえた動画コンテンツの企画を心掛けたいものです。